織り手のセンスが光るモダンな首里織。Sui.Sai(スイ.サイ)の名刺入れ
2020.04.20
GOODS琉球王国時代、貴族や士族のための織物として首里のまちで育まれた「首里織」。格調高く、さまざまな技法を用いて織られる首里織は、柄も色使いもとても豊かです。そんな首里織を「もっと身近に感じて欲しい」と、10人の織り手がSui.Sai(スイ.サイ)というグループを立ち上げました。一人ひとりの個性を生かして作られたSui.Saiの名刺入れは、手のひらに収まるほどの大きさだけれど、糸を染め、繰り、織り上げてかたちになるまでに、驚くほどの工程があるのです。
伝統ある首里織を、現代の暮らしの中でも使ってほしいから
王府の城下町として栄えた首里で生まれた織物が「首里織」と命名されたのは昭和58年のこと。「王府の方々が着るものはもちろん、首里のまちで織られていた織物の総称を首里織とする」と、通産省伝統産業法に申請する際に決まったといいます。そのため、格式の高い織物に用いるものから絣の原型といわれている織物まで、技法の種類が多いのも首里織の特徴の一つです。
そんな歴史ある首里織を現在も織り伝えているのは、那覇伝統織物事業協同組合。現在、90名ほどの織り手さんが所属しています。
「首里の彩(いろどり)」という意味から名付けられた「Sui.Sai」は、普段使いできるもので首里織をもっと知ってもらいたいと、織り手の中から有志が集まり生まれたグループです。比嘉麻南さんと山里千佳子さんはそのメンバーの一人。
「首里織の多くが着物や帯などを仕立てる反物(たんもの)として県外へ出荷されるので、沖縄県内であまり出回らないんです。県外の方に知ってもらえるのはもちろん嬉しいんですが、沖縄でもやっぱり知ってほしいという気持ちはありますね」。
首里織を始めて比嘉さんは10年、山里さんは8年ほど。二人とも声を掛けられSui.Saiのメンバーになったそう。Sui.Saiの名刺入れの一番の魅力を尋ねたところ、二人とも口を揃えて「やっぱり一つとして同じものがない、というところだと思います」と。Sui.Saiの名刺入れのコンセプトは、織り手の個性を出すこと、そして同じものを作らないこと。二度と同じものは作らない。Sui.Saiの名刺入れは、すべて“一点もの”なのです。
植物から染料をつくり、糸を染めて繰り、仕掛けて織る。すべての工程を手作業で
織り上がるまでにどのくらいの工程があるかをうかがったところ、「織物というと、機(はた)に座って織る作業が大半のように思われますが、実際は織る作業は全体の1〜2割。全体の作業の一部なんです。そこに至るまでも長いんですよ」と話してくれました。しかも、その織る作業までにたくさんの複雑な工程があり、それをすべて一人で、手作業で行うのだといいます。
首里織の工程は、大まかに以下の内容だとお二人が説明してくれました。
まず始めは、糸の染め。植物で染める時は、がじゅまるやフクギの葉や幹を集め、それを煮出して染液を作ります。次に染液に白い糸を浸けて染め、色を定着させる媒染(ばいせん)、水洗いという3つの工程を何度も繰り返して糸を染めます。そして糸を乾かしたら、今度は織るために糸を巻き、続いて織り機に糸を設置できるようにするための作業に移ります。ここもまた時間がかかるのだそう。
織る時には経糸(たていと)と緯糸(よこいと)が必要で、技法や図案をもとに、「織るために何色の糸を何本使い、どの順番に糸を並べる」ということを事前に決めておきます。それに合わせて、実際に数本の糸を撚(よ)り合わせておいたり、柄の順番に何百本という糸をきれいに並べたりします。そして、その後に糸を織り機にセットする「仕掛け」という作業をし、ようやく織ることができます。
「糸の配置や仕掛けで間違えると、本当に大変。織り機に糸を掛けるときは、針に糸を通すように、一本一本、糸をワイヤーヘルドと呼ばれる織り機の穴に通す作業をするんですが、間違えたらそれをすべてやり直さなくてはいけない。何十本、時には何百本あります。たぶん、織り手さんなら誰でもやり直した経験はあると思いますよ」。
比嘉さんも山里さんも笑いながらそう話してくれましたが、それは信じられないような作業。たとえスムーズに進められたとしても多くの工程が必要になるだけに、間違えてからの後戻りは、それに輪をかけて大変。でも、それだけ手間をかけ、時間をかけるからこそ生まれる美しさが、首里織にはあるのです。
首里織ならではの「品格」を大切に、いま愛されるデザインを考える
Sui.Saiの名刺入れは、首里で革細工の工房を構えるRAKUSYOU/楽尚(らくしょう)とのコラボレーションで作られています。ベースとなる革のカットや縫製を邪魔せず、名刺入れという小さなキャンバスの中で、どれだけ自分なりのデザインを考えられるか。それが織り手の楽しみでもあるのだそう。
「首里織の講習を受けた時に、『どんなデザインにするかを考えるのは、織り手の楽しみの一つ。自由に個性を出して欲しいけれど、“品を大事にする”ことを覚えていてね』と言われたんです。『首里織の品』というのは、答えのないテーマでもありますが、でもその言葉を頭の中に置きながら織るようにしています」と比嘉さん。
山里さんは「私も『品格』は意識しながら、色使いに気をつけるようにしています。名刺入れという小さなサイズの中で、明るくてきれいに見える柄や色使い、バランスを考えてデザインを決めていますね」と。
デザインを頭の中で考えイメージし、設計図におこす。それから糸を準備し、織る作業へと移るけれど、どれだけ頭で考えていても、実際に織ってみないと仕上りは分からないものだといいます。
「織物は、経糸と緯糸が交わって、初めて色が完成するんです。織る前に糸と糸を合わせてみたりはしますが、やっぱり織ってみないとわからない。思っていたよりも悪かったり、良かったり、いろいろあります。でも、想像していたように綺麗に仕上がると、すごく嬉しいですね」。
織り手の感性と、首里織ならではの豊かな技法から生まれる名刺入れ。その凜とした美しさは、これからお付き合いが始まる、初めて出会う人との瞬間をきっと後押ししてくれるはずです。