樂園COFFEE HOPPING
2020.10.02
OKINAWA数年前からのコーヒーブームで、沖縄ではおいしいコーヒーが飲めるショップが年々増加中。なかでも、実力派ロースターが味をとことん追求し焙煎したコーヒーは、知らなかったコーヒーの新たなおいしさを教えてくれます。コーヒー好きも、そうでない人も、一度は訪れてみてほしい樂園セレクトのお店を紹介します。
市場の相対商売のように顔を合わせてコーヒーの“ワクワク”を共有したい ―COFFEE potohoto―
那覇市安里にある栄町市場は、青果店や鮮魚店、精肉店に生活雑貨の店と、昔から地元の人が通う市場。さまざまなお店が軒を連ねる中、旗のように風に揺れる「豆」の文字がCOFFEE potohoto(ポトホト)の目印です。
店主の山田哲史さんがコーヒーのお店を始めようと思ったのは「スペシャルティコーヒー」に出会ったことがきっかけ。豆の栽培から収穫、品質管理までが徹底して行われ、素晴らしい焙煎と抽出から生まれた1杯を初めて飲んだ時、味も香りもこれまで知っていたコーヒーとはまったく違って心底驚いたといいます。
「コーヒーにはこんなにいろんな香りがあるんだ!砂糖を入れていないのに、甘みを感じられるものなんだ!って本当に感動して。とにかくそれをみんなにも知ってもらいたかったんですね」
“コーヒーってすごい”と思うことをお客さんと共有したい。そのためには、お店は顔を合わせてしっかりコミュニケーションが取れる場所がいい。そう思って探す中で出会ったのが、栄町市場の中の2.5坪のスペース。もともと買い物でよく訪れていた上に、市場の人たちからの「ここでやりないさいよ」という温かな声もあり、2006年12月、COFFEE potohotoはオープンしました。
「店を出そうか考えていたとき、市場の人たちが『大丈夫。私たちが1日に3杯でも4杯でも飲むから』って言ってくれて。実際にオープンしたら本当にみんな注文してくれるんですよ(笑)。すごく有難いし、市場っていうちょっと変わったところでやれて本当に良かったと思います。ここで昔から行われてきた相対商売も、僕がやりたいと思っていた“お客さんとコミュニケーションが取れる店”としては最適でしたね」
一般的にコーヒー豆の仕入れは、バイヤーと呼ばれる生産者と買い手をつなぐ人が行うものですが、山田さんは自分の行ける範囲の産地には直接足を運びたいと、これまでに沖縄の北部はもちろん、台湾、フィリピン、インドネシアの生産者を訪れたことがあるといいます。現地で栽培、収穫、生豆になるまでの製造工程を見せてもらい、生産者と直接話をすることで、「自分が焙煎しお客さんのために抽出するコーヒーは彼らと一緒につくっている」という気持ちがとても強くなったそう。最近もインドネシアのジャワ島を訪ねたばかりの山田さんは、そこで新たに思うことがあったといいます。
「ジャワ島は歴史的に見ると、世界にコーヒーが広まるきっかけになった地なのですが、そこには300年ほど前に植えられたコーヒーがそのまま今も自生しているところがあるんです。インドネシアの人たちは、そのコーヒーの自生林をそのまま残して守る取り組みを始めている。それは、コーヒーファームを作るよりも、より自然なかたちで栽培を行いたいという気持ちからなんですね。それを聞いて、今は持続可能なことをするタイミングなんじゃないかと思ったんです。自分が味わってきたおいしいコーヒーが自分たちの世代だけで終わらないように、次の若い世代にも飲めるように今できることがしたいと思って、インドネシアの彼らに学ぼうとしているところです」
いつでもワクワクしながら仕事をしたいからと、コーヒーを生業にすることを選んだ山田さん。この12月でお店は14周年を迎えます。これからも最初の感動を忘れずコーヒーのすごさを伝え、コーヒーを通してできることにも山田さんはチャレンジしていきます。
●COFFEE potohoto
那覇市安里388-1(栄町市場内)
098-886-3095
10:00~18:00(金土のみ~19:00)
日曜定休
オフィスコーヒーから始まった家族で営むコーヒー豆の店 ―OKINAWA CERRADO COFFEE―
「自称ですけど、沖縄のコーヒー屋さんの中でも、コーヒー豆を触っている時間は一番長いと思います。小学生のころからピッキング(豆の選定作業)をやっていましたから(笑)」
浦添市港川、外人住宅街に焙煎工房と店を構える沖縄セラードコーヒーは、末吉業人さんのお父さんが始めたもの。現在は父の業久さん、兄の業充さん、そして業人さんと、家族で豆の仕入れから焙煎、販売を行っています。もとは呉服店を営んでいた業人さんのお父さんが業務転換を考えたのが、バブル崩壊の数年前のこと。高いものがどんどん売れる時代はいつか終わりがくることを考え、また移民としてブラジルに移り住んだ兄がコーヒー農園の立ち上げに出資したこともあり、コーヒーが日本でもひとつの生業として成り立つとアドバイスを受けて、自家焙煎コーヒー店への転職を決意したのだといいます。
「コーヒーを扱い始めた当時は知識がなくて、『コーヒーの産地がブラジル以外にもあることもこの仕事をやるようになって初めて知った』なんて父親は言っていましたね(笑)」
沖縄セラードコーヒーが主に扱っていたのは、いわゆる「オフィスコーヒー」と呼ばれる企業の事務所に機器ごと設置するコーヒー。汎用性が高く多くの人に受け入れられやすい豆を使い、官公庁などをはじめ多くの企業へ卸していたといいます。当時は焙煎する工房しかなく、一般消費者に向けた豆を販売する店舗はなかったとのこと。そうした中で小売りも視野に入れ始めたのは、コーヒーを取り巻く世の中の動きの変化を感じたからだったそう。
「どんな風にしたら今後もコーヒー屋として成り立っていくか、というのを考えたときに、卸だけではなくて、コーヒーをちゃんと伝える場所が必要なんじゃないか、って。コーヒー豆や粉は、そのままではいわゆる未完成品。淹れることでやっと完成する。でも、どうやればおいしくなるかを知らないと、コーヒーは苦くておいしくないと思われてしまうかもしれないですよね。そうではなくて、豆にもいろんな種類があることや、焙煎によって味が変わること、そして自分の好みを知ってから豆を選ぶことや、淹れる方法でコーヒーはおいしくなるんだよ、というのを伝えたかったんです」
こうした考えの根底にあるのは、生産者を大切にしたいという想い。「コーヒーは苦いから好きじゃない」と思われることは、生産者に対して申し訳ないという気持ちになってしまう。自分たちでも沖縄に農園を持ち、栽培から豆にする作業まで行うからこそ、その想いはとても強いのだと業人さんはいいます。
小売りの必要性、重要性を考え、工房の隣に小売りの店舗「Beans Store」をオープンしたのは2015年のこと。2019年には商業施設にも出店が決まり、これまでは場所柄で観光客が多かったのが、出店により地元のお客さんがぐっと増えたとのこと。
「商業施設には、コーヒーに深く興味のない人もたくさん来ます。でもそうした人たちにスペシャルティコーヒーという品質の高いコーヒーを知ってもらうことが目的としてあったので、よかったかなと思っています。僕たちの役割は、コーヒーのことを広めて、スペシャルティコーヒーを一般的にすることかなと思っています。みんなが気軽に選べるようになって、コーヒーの輪を広げていけたらと思いますね」。
●OKINAWA CERRADO COFFEE BeansStore
浦添市港川2-15-6
080-6486-4107
11:00~18:30
定休日なし
正解は飲み手が決めること。コーヒーを楽しむことが一番大切 ―豆ポレポレ―
豆ポレポレの仲村良行さんは、コーヒーの焙煎技術を競う大会、World Coffee Roasting Championship(通称WCRC)で2018年度に世界第2位を手に入れた経歴の持ち主。素晴らしい功績を収めた仲村さんですが、学生の頃はコーヒーを飲むのは単に眠気覚ましのためだけ。決しておいしいとは思っていなかったといいます。
大学を卒業し、タイやベトナムなどアジアをバックパッカーで旅する中でコーヒーに出会い、帰国後にタイミングよくコーヒーショップで働く機会があったことから、みるみるうちにコーヒーにハマったという仲村さん。「興味があることが見つかると周りが見えなくなって没頭するタイプ」と自分自身をそう分析する仲村さんですが、その言葉通り、寝ても覚めて考えるのはコーヒーのことばかり。資料を読み漁り、自由になる時間とお金はすべてコーヒーに関することに使うなど、夢中で知識を増やしたといいます。
「もともと僕は手先がすごく不器用で、小学生のころから図工の成績も良くなかったんですが、コーヒーショップで働いたときに、僕が淹れたコーヒーをお客さんがおいしいと言ってくれることが本当に信じられなくて。こんな不器用な僕が淹れたコーヒーが本当においしいの??って。でもそれがめちゃくちゃ嬉しかったんですね。そこでがぜんやる気になって、もっとおいしいコーヒーをお客さんに提供したいって追及し始めたのがハマった理由の一つかもしれません」
「コーヒーは嗜好品なので、おいしいと思う答えはたくさんあるし、逆に間違いというのもないと僕は思っています」と仲村さん。
「同じ1杯のコーヒーを飲んでも、その苦みがいいという人もいれば嫌だという人もいますよね。コーヒーはとらえる人によって正解にも不正解にもなるんです。それはコーヒーの懐の深さのように感じられて。それにコーヒーは、豆を育てる生産者と、それを焙煎するロースター、そして淹れる人と、その全員が1杯のコーヒーの作り手になるんですね。多くの人の手が入ってできあがる1杯に、おいしさの不正解がないとなったら、もう楽しめる要素しかないって思うんですよね」。仲村さんはとても嬉しそうにそう話してくれました。
豆ポレポレでは味を評価するときに、「最高」「ベスト」などの言葉を使うことはほぼないのだといいます。それは、誰かにとっては最高かもしれないけど、みんなにとってではないから。味を比べる必要はないし、伝えたいのは優劣ではなく個性なのだから、と。
マニアックとも言えるほどのコーヒーの知識を持つ仲村さんの話は、もっと聞きたいと思わせるものばかり。豆ポレポレを訪れたらきっと、コーヒーのことをもっと知りたくなるはずです。
●豆ポレポレ
沖縄市高原6-13-8-1F
098-927-3260
10:30~18:30
木曜・日曜定休