紅型をもっと身近に、暮らしに寄り添うものづくり
2017.12.04
PEOPLE南国ならではの風土を想わせる色鮮やかな沖縄の染物「紅型(びんがた)」。その紅型を、お土産にもぴったりな雑貨などにアレンジして作品づくりを行っている紅型作家、『虹亀商店』の亀谷明日香さん。開け放たれた引き戸から心地よい風が吹き抜ける、古民家の自宅兼工房でお話を伺いました。
【沖縄との出会い、紅型との出会い】
−はじめに、紅型(びんがた)について教えていだだけますか?
紅型は沖縄の伝統的な染め物で、南国特有のぱあっとした明るく鮮やかな色彩が大きな特徴のひとつです。
技法としては、布に型紙をあてて糊置きをし、その後、一色一色筆を使って顔料を擦り込み染めていく”型染め”と呼ばれるもの。型染め自体は本土にもあるのですが、沖縄では紅型として独自に発展していったんです。
染料は、“岩絵の具”と呼ばれる顔料や、琉球藍、ガジュマル、フクギなどの植物染料を作って染められています。特にフクギ染めは、沖縄以外ではあまりみられません。沖縄は日差しが強く植物染料はだんだん色落ちしてくるんですが、フクギは色落ちが少なくいつまでも鮮やかなまま。防風林として集落の周りや海岸沿いでよく見かけますけど、染料としても素晴らしい植物ですよね。
−東京ご出身の亀谷さんが沖縄に移住し、しかも沖縄の伝統工芸である、紅型作家として活躍されています。何がきっかけになったのでしょうか?
私は小さい頃からとにかく絵を描くのが好きで、将来は絵を描いたり、ものをつくったりする仕事がしたかったんです。高校を卒業したら美術系の大学に進学するんだろうなあと、漠然と考えていました。
それが高校1年生のときに、沖縄に出会ってしまったんです。
初めて沖縄を訪れたのは、友人との二人旅でした。滞在中、海で仲良くなったおばあちゃんに「ウチでご飯食べていったら?」と誘ってもらったり、「畑仕事を手伝うかわりに泊まっていきなさい!」と言ってもらったり、出会った方にとても親切にしてもらったんです。自分がそれまで過ごしてきた世界とのあまりの違いに衝撃を受けて……。それでもう、沖縄が大好きになってしまったんです。
高校の三年間はとにかくバイトをして、お金を貯めては休みのあいだ沖縄に飛ぶ、という生活をしていましたね。しかも、できるだけ長く滞在するために、宿には泊まらずテントをはって自炊していたんです。そのうち三線も習いはじめたりして。本当に沖縄が好きで、ちょっと異常なくらいでした(笑)
それで結局、高校卒業と同時に勢いで沖縄に来たんです。とはいえ、あてがあったわけでもなく、旅行の延長のようにテント生活をしていたら、さすがに両親からストップがかかりましたね……。
でも、「帰ってこい」ではなくて、「沖縄が好きで移り住んだのだったら、沖縄ならではのことを学んでみたら?」と言われたんです。それで調べてみたら、沖縄にも芸大があることがわかって。しかも、 “伝統工芸科”という、沖縄の染めや織り、陶芸を学べる学科がある。「これだ!」と思いましたね。実は、受験会場にはテントから向かったんです。今思えばよく受かったと思います(笑)
【紅型をもっと身近に。子どもも大人も楽しめる紅型絵本『やどかりの夢』】
−伝統工芸品である紅型を、さまざまな生活雑貨にアレンジした作品づくりをされていますが、そのアイデアなどはどこから湧いてくるのでしょうか。
紅型は、琉球王朝時代から位の高い人が身に着けていたもので、高級品。だから、気軽に買えるお土産物って全然なかったんです。なにか紅型のものを買って帰りたいと思っても、あるのは本物とは色も風合いも全く違うプリントのハンカチぐらい。気軽に持てる紅型のものがあったらいいのに……とずっと思っていました。
それで大学在学中に、紅型の布でランプシェードを作ってみたり、型紙に光をあてて影絵のようにしてみたり、「紅型でできたら面白いな」と思うものをいろいろ自分で作っていたんです。学生時代に自由に好きなものを作ることができたという経験はすごく大きくて。振り返ってみると、今の自分の作品につながっているものも多いですね。私は紅型と出会ったことで、“自分の絵”が描けるようになったんだと思います。
−樂園百貨店で取扱中の紅型絵本『やどかりの夢』も、これまでにない伝統工芸のアレンジだと思います。この作品は、どのようにして生まれたのでしょうか。
絵本作家になるのが小さい頃からの夢だったんですけど、実はお話を考えるのが苦手で…。憧れのままに何度か挑戦してはみたものの、やっぱりうまくいきませんでした。それが2015年の春、奈良県で小さな出版社をたちあげた渡邉直加さんという女性と出会ったことで、大きく夢が動き出したんです。
彼女は私と逆で、文章を書くけど絵は描けない。不思議なご縁で友人が引き会わせてくれた私たちはすぐに意気投合して、この絵本作りが始まりました。
直加さんが執筆のため南城市で過ごす日々のなかで、出会ったもの、感じたものを詰め込んでいったお話は、一見子ども向けのようだけど、大人が何度読んでも毎回新しい発見と感動があるんですよね。こんな素敵なお話に絵をつけられたことが、本当に嬉しかったです。
『やどかりの夢』に付属しているCDには直加さんによる朗読も収録されていて、BGMには水の流れる音が入っているんです。最初はチョロチョロと細く水が流れる音だったのが、豊富な水量の湧き水の音に変わり、だんだんと大きくなっていって、最後は海の波音に。大きな水の流れとともに物語も進んでいく、そんな絵本になっています。水の音はぜんぶ南城市で録音されたもので、この音に癒されるという方も多いんですよ。
【生活とものづくりがともにある、沖縄の暮らし】
−沖縄のものづくりについては、どんなふうに感じていますか?
もともと沖縄の工芸品が大好きで、旅行で来ているときからいろんな工房を見てまわっていたんですが、久米島の久米島紬、宮古島の宮古上布、喜如嘉(きじょか)の芭蕉布など、それぞれの土地に根ざした工芸品がたくさんあることにとてもびっくりしました。しっかりと受け継がれている伝統があるって、素晴らしいことですよね。
ここ南城市でも、ものづくりをしている人がいっぱいいるんですが、それが決して特別なことじゃなく、生活のなかに根付いているんです。
私は4人の子どもがいるので、ごはんを作りながら横で紅型のものを作ったり、洗濯しながら紅型の道具を洗ったり、散歩しながら絵を描いてそれがデザインになったりと、生活のなかで紅型づくりをしています。生活=ものづくりというか、生活とものづくりが一緒になった暮らしができるのは、この場所だからこそ。
紅型には、急いでも出来ない、自然が仕上げてくれるのを待つしか無い時間がたくさんあるので、自分の生活リズムが紅型のリズムに重なっていくのを感じるんです。生活の中に、自然にものづくりがある。それもまた、沖縄ならではの魅力だなと思います。